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反撃、総力戦!!

「ダーカー達が…逃げていく……?」
「恐らく、主軸だった中型ダーカーが全て倒されたのを見て敗走を決めたのでしょう。戦力が十全であれば追撃も視野に入りますが。」
「無茶は禁物だね~!!」

撤収を始めたダーカー達を、リアンが不思議そうに見つめると、すずしろとくろがねも武器を収めてダーカー達の様子を観察していた。

「まだ攻めてくるかな?」
「正直これ以上は厳しい戦況ですが、来るならばやるしかありません…。」
「…おい、あれを見ろ。」

アルの問いに不安を隠し切れずに答えるえくれあ。すると何かを見つけたシャルラッハの声に全員が顔を見上げる。そこには、巨大な影が3つ。

「バカな…こんな、こんなことが……」
「うわぁ、ダーカー、やる気満々じゃんよ…」

フェデルタとエオリアもそれぞれの配置で呻いていた。それもそのはず、3つの影の正体は《ダーク・ラグネ》、《ブリュー・リンガーダ》、《ゼッシュレイダ》、3体の大型ダーカーだった。

「えくれあちゃん……っ!!」
「(ダメだ……まともにやっては勝ち目がない……!!)」

エーテルは恐怖と不安の入り混じった表情でえくれあを見つめていた。

「…戦線を再編成します。すずしろさんはくろがねさん、エオリアさん、アルさん、ショウさんと共にブリュー・リンガーダを対処してください。」
「分かりました。」
「フェデルタさん、あなたは姉さん、フォンさん、シャルラッハさん、シルファナさん、リアンさんと共にゼッシュレイダの対処をお願いします。」
「……えくれあお嬢様、まさかあなた……!?」

えくれあの意図に気付いたフェデルタがえくれあを見据える。そのえくれあの表情は、どこか達観したものとなっていた。

「…両部隊とも、対処が終わったら応援をお願いします。それまでは、私がダーク・ラグネを食い止めます……!!」
「えくれあ、勇敢と向こう見ずは別物だぞ…!!」
「だとしても、やるしかないんです!!」

シャルラッハが強い語気でえくれあに詰め寄るが、えくれあはそれ以上の強さで叫び返した。

「悩んでいる時間などありません…この戦力でこの状況を打破するには、それしかありません……。」
「だけど…それじゃマスターが……!!」
「…ありがとう、リアンさん。でも大丈夫です、このチームは、『Re:Busters』は、どこにも負けない最高のチームですから…だから、早く助けに来てくださいね。」
「えくれあちゃん……だめ、だめだよ……っ!!」
「そうだよえくちゃん、何か別の方法を……」

リアンとエーテルとフォンは、その目を光らせながらえくれあに訴えかける。しかしその時、非情な雄叫びが響き渡った。

「…来ます、皆さん作戦通りに頼みますね……!!」

仲間の返事を待たずして、えくれあは一目散に走り出す。

「あなたの相手は私です……!!!」

降り注ぐ電撃を掻い潜り、《ディストラクトウィング》で《ダーク・ラグネ》の頭を斬り付け、そのまま《ダーク・ラグネ》の後方へ回り込んだ。

「…私の名は、えくれあ・エルドラド。あなたを滅ぼす者です……!!」

その一方で、《ブリュー・リンガーダ》と《ゼッシュレイダ》も拠点に向けて侵攻を始めた。

「ちくしょう……ちくしょおおおおおおお!!!!!」
「ショウちゃん!!一人で行っちゃだめ!!」
「……すずしろ班、戦闘開始します。」

大声で叫びながら《ブリュー・リンガーダ》に向かって走り出すショウと、その後を追うアル。2人を見たすずしろも、僅かに表情を暗くしたまま《ブリュー・リンガーダ》に接近する。

「…それっ!!ウィークバレット一丁あがりーっ!!」

エオリアが叫びながら《ウィークバレット》を放つ。しかし狙いは逸れて《ブリュー・リンガーダ》には当たらない。

「それならもう一丁!!どーん!!」

めげずに放たれた2発目の《ウィークバレット》は無事に命中し、《ブリュー・リンガーダ》の頭部へ突き刺さった。怒った《ブリュー・リンガーダ》は近くにいたすずしろに向けて手に持った槍を振り回す。しかし槍は無数の銃弾によって勢いを殺され、その隙を見てすずしろは攻撃範囲から逃れていく。

「クロ姉、ありがとう。」
「ふふ、しろちゃんはやらせないよ~!!」

再び槍を繰り出す《ブリュー・リンガーダ》だが、今度は完全に見切ったすずしろが刀身で受け止め、弾き返す。その隙にショウとアルが猛然と《ブリュー・リンガーダ》の懐に潜り込んでいった。

「ディストラクトウィング!!」
「グラビティブレイク!!」

2人の渾身の一撃は確かに《ブリュー・リンガーダ》に命中した。しかし、それを物ともしない《ブリュー・リンガーダ》は突進を仕掛け、強引にアルとショウを吹き飛ばした。

「うあああああああ!!」「きゃああああああ!!」
「くっ…」
「全然効いてないみたいだね~…」

更にすずしろ達から大きく距離を取った《ブリュー・リンガーダ》は、背負っていたリングを両手に広げ、そこからビーム攻撃を繰り出してきた。

「しろちゃん危ない…きゃあああ!!」
「っ……あああああああああ!!」
「いやああああああああああああ!!」

継戦疲労のせいか、一瞬反応が遅れたすずしろをくろがねが抱き抱えるように庇う。しかし圧倒的な威力のビームの前には意味を為さず、2人は全身から血を流しながら吹き飛ばされていく。更に後方にいたエオリアまでもがビームの射程に捉えられ、為す術無く吹き飛ばされた。

「くっ…エーテルお嬢様は遠距離からの狙撃を。フォンさんとシルファナさんは法撃による後方支援、リアンさんとシャルラッハさんは僕と奴の脚を叩いて隙を作ります。」

一方フェデルタは歯ぎしりしながらも指示を出し、先陣を切って《ゼッシュレイダ》に向かっていく。その少し後ろをシャルラッハとリアンの2人が追走していた。

「3人とも頑張って、シフタっ!!」
「そいじゃ私も!!デバンド!!」

エーテルとフォンが咄嗟に《シフタ》と《デバンド》を放って3人を援護する。

「どれほど役に立つかは分かりませんが…ザンバース。」

シルファナは《ゼッシュレイダ》へ向けて導具を放ち、そこから《ザンバース》を発生させた。

「撃ち抜け、グリムバラージュ。」
「それっ、ヒエンツバキっ!!」
「…イモータルターヴ。」

3人は走りながら《ゼッシュレイダ》の脚を目掛けて先制攻撃を仕掛ける。すると《ゼッシュレイダ》は大きくよろけて腹部のコアを晒すように仰向けに倒れた。

「行ける…皆さん、追撃します。」
「う、うんっ!!」
「一気に仕留めるしかあるまいな…!!」

転倒した《ゼッシュレイダ》を目の当たりにしたエーテル達も、ここぞと言わんばかりに次なる攻撃を繰り出した。

「当たって、ペネトレイトアロウっ!!」
「「………イル・フォイエ!!」」

エーテルの《ペネトレイトアロウ》、フォンとシルファナの《イル・フォイエ》が次々《ゼッシュレイダ》の腹部に命中していく。さらにそこへ腹部へ上り詰めたフェデルタ達の追撃も加わる。

「撃ち砕け、サテライトエイム。」
「えいっ、サクラエンドっ!!」
「…ヘブンリーカイト。」

決死の猛攻を全て撃ち切ったフェデルタ達。一瞬《ゼッシュレイダ》の動きが止まり、リアンの表情が一瞬明るくなった。

「やった…!?」
「………いや、これは…!?」
「っ…まずいぞ…!!」

しかし、《ゼッシュレイダ》は突如動き出した。身体を駒のように回転させて、フェデルタ達を地面へと弾き飛ばしていく。

「「「うわあああああああああ!!!!」」」」

激しく地面に叩き付けられるフェデルタ達。さらに《ゼッシュレイダ》は回転したままエーテル達の方へと突進していく。

「嘘…っ!?」
「え、ちょっとちょっと!?こっち来るよ!?」
「まずい、よけられません……!?」

そして、勢いを増した《ゼッシュレイダ》が容赦なく3人を撥ね飛ばした。

「「「きゃああああああああああああ!!!!」」」

撥ね飛ばした後数十メートルしたところでようやく停止した《ゼッシュレイダ》は、回転を止めてゆっくりと起き上がった。

「はぁ………はぁ………っぐ…」

《ブリュー・リンガーダ》と《ゼッシュレイダ》が仲間達を蹂躙していく様を、えくれあは《ダーク・ラグネ》の巨体越しに捉えていた。

「私に…もっと私に力があれば……」

全身傷だらけで、口からも吐血をこぼしながら、えくれあはそれでもなお立ち上がっていた。

「私は…最期まで諦めない……例え、敵うことがないとしても……。」

両手の《ブランノワール》を握り直し、《ダーク・ラグネ》を睨み上げる。

「それでも私は最期まで戦い抜いてみせる…それが、私を信じてくれた皆さんへの………せめてもの報いになると信じているから……!!」

朦朧とした意識で、えくれあは《ダーク・ラグネ》に歩み寄る。もはやフォトンアーツすら繰り出す余力の無い小さな身体を引きずるように、目の前の敵へ立ち向かっていく。そんなえくれあに、《ダーク・ラグネ》は容赦なく前脚を振り上げる。そして前脚がえくれあの身体を叩き潰そうとしたその瞬間、突如《ダーク・ラグネ》の巨体が横へ吹き飛ばされていた。

「え………?」

えくれあが揺らぐ視界に目を凝らしてみると、今しがた《ダーク・ラグネ》が立っていた場所に2つの小さな人影が立っていることに気付く。そしてその人影に身体を引きずっていくと、えくれあにもよく見覚えのある人物が2人、立っていた。

「はぁ、はぁ、間に合った……!!!」
「おー!!久しぶりだねー!!随分派手に暴れてるじゃーん!!」
「フィリアさん…メイさん……?どうして、ここに……?」

突如現れた人影、フィリアとメイの姿を認めたえくれあは目を見開いて2人に問いかける。

「実はメイさんと修行してたんですけど、途中で『Re:Busters』にも防衛任務への出撃要請が来たことを知って…メイさんにお願いして、一緒に来てもらうことになったんです!!」
「そう、でしたか……」
「来て正解だったよー!!みんなボロボロじゃん、間に合って良かったよほんとー!!」

メイは最悪の戦況すら笑い飛ばすような笑みをこぼす。そしてフィリアと共に《ダーク・ラグネ》に向き直る。

「待っててくださいね、まずはこいつを…」
「いえ、フィリアさん……フィリアさん達は他の皆さんをお願いします。」

フィリアを制したえくれあはゆっくりと前へと歩み出る。

「いや、そのケガだし無茶しないほうが良いってー!!ほら、あっちはまだ立ってるこっちに気が向いてるみたいだし、速攻であいつ仕留めてから倒せば…」
「…少しでも早く皆さんを助けたいんです。」

メイの制止も振り切り、えくれあは歩き続ける。その歩みはいつの間にか瀕死とは思えぬほど確かな足取りに変わっている。

「えくれあさん…分かりました。無茶、しないでくださいね?」
「……はい。」
「え、いいのかフィリアー?流石にまずいっしょー!!」

メイは笑顔を作りながらも食い下がるが、フィリアの決意は固まっていた。

「…私、えくれあさんに逆らって皆をひどい目に合わせたんです…同じことは……もうしたくないから。」
「…わかったよー!!あんた達はほんと無茶苦茶やるなー!!」
「ありがとう、メイさん…わたし、ゼッシュレイダの方に行きます!!」
「おー、じゃああたしはあっちの奴だなー!!任せろー!!」

《ゼッシュレイダ》と《ブリュー・リンガーダ》にそれぞれ向かっていくフィリアとメイを、えくれあは背中越しに見送っていた。

「私は…また間違うところだった…」

えくれあは歩みを速め、やがて走り出す。

「最期まで諦めない、なんて…逃げてるのと同じなんだ……」

速度はみるみる速まり、最高速に達した時、えくれあの全身から紅いフォトンが吹き出した。

「勝つんだ……絶対に……!!!!!!」

えくれあの左の瞳が、紅く染まる。突然の変化を見せたえくれあに驚いたのか、《ダーク・ラグネ》は慌てて雷撃を発生させる。

「遅い………!!」

無数の雷撃の僅かな隙間を掻い潜って躱しながら走り抜けるえくれあ。そして《ダーク・ラグネ》の懐に潜り込み、《ヘブンリーカイト》で後頭部のコアまで一瞬で斬り上がる。

「私は生きて帰る…そして、皆も必ず生きて連れ帰ってみせる……!!」

紅いフォトンに包まれた白と黒の飛翔剣が、閃く。

「これが、私の覚悟の証…ケストレル、ランページ……!!」

紅い刃が、《ダーク・ラグネ》のコアを薙ぐ。何度も何度も斬り付けられ、最期には紅いフォトンの奔流さえ叩き付けられたコアは大爆発を起こし、《ダーク・ラグネ》は大きな音を立てて地面に崩れ落ちた。

その頃フィリアとメイはそれぞれ倒れている仲間達に駆け寄り、《ムーンアトマイザー》を宙へ放り投げた。次々に起き上がってくる仲間達を背中に、フィリアとメイは不敵に微笑む。

「あ、れ…フィリア…ちゃん…っ?」
「エーテルさんごめんなさい、遅くなっちゃいました…!!」

きょとんとするエーテルに、フィリアは照れくさそうに答える。

「あなたは…誰……?」
「あたしー?あたしはフィリアのお師匠様さー!!」

僅かに警戒心を覗かせたすずしろに、メイは相も変わらぬ快活さで答える。そして、2人が一斉に動き出した。

「おら死ねー!!シンフォニックドライブー!!」
「行きます!!シュトレツヴァイ!!」

メイは《ブリュー・リンガーダ》に、フィリアは《ゼッシュレイダ》に全速力で突っ込んでいく。《ブリュー・リンガーダ》は背中のリングを、《ゼッシュレイダ》は片脚を打ち砕かれて無様によろめく。

「まだまだー!!ブラッディサラバンド!!」
「トドメです!!スラッシュレイヴ!!」

弱点を曝け出したそれぞれの敵に、全力で攻撃を打ち込んでいくメイとフィリア。元気一杯の猛攻に、やがて2体の大型ダーカーがほぼ同時に倒れ伏した。



「強くなったなフィリアー!!」
「メイさんのおかげです!!ありがとうございます!!」

苦しい戦況に流れる空気を吹き飛ばすようにハイタッチを交わすメイとフィリア。各自傷の手当をしていた仲間達も2人に詰め寄っていく。

「フィリアさん、帰ってきたのですね。」
「フェデルタお兄ちゃん!!遅くなってごめんなさい…でも無事でよかった……!!」

そう言ってフェデルタに抱き着くフィリア。

「…あなた、フィリアさんの師匠、と言っていましたね。」
「そうさー!!いつもフィリアがお世話になってるみたいだねー!!」
「しろちゃ~ん、助けてくれた人を警戒しちゃだめだよ~」

依然見知らぬメイに警戒心を解かないすずしろを、くろがねがにこにこしながら窘めた。

「皆さん、大丈夫ですか!!」

その時、《ダーク・ラグネ》を撃破したえくれあも仲間達の元へ駆け寄ってくる。その身体からは依然紅いフォトンが吹き出し、両眼は真紅を湛えていた。

「えくれあちゃん…その眼……っ!?」

エーテルに指摘され、ようやく自身の変化を自覚するえくれあ。

「あ…でも、以前と比べて意識ははっきりとしています。何故でしょう……。」

えくれあが首を傾げたその時、周囲一帯に大きな地響きのような音が鳴り響いた。そしてえくれあ達は間もなく、その正体を知ることとなった。

「ダーク・ラグネ…いや、あれは……!!」
「ダーク・ビブラスか、また厄介な奴が出てきたな…」

《ダーク・ビブラス》の姿を見たアルは驚愕の表情を浮かべ、シャルラッハでさえ表情を険しく歪ませた。さらに一行は信じられない光景を目にする。

「ねー、あの手みたいなの、何?」
「ぼ、僕は見たこと無いよ……」
「(まさか、いやそんなはずは……!?)」

フォンの質問に答えられず狼狽えるリアン。その横ではフェデルタが目を見開いて一対の腕状の何か《ファルス・アーム》を見つめている。

「よくわかんないけどさー、あれ、すごい嫌な感じするねー!!」

突然、メイが笑顔のままそんな事を口走る。彼女は更に続けた。

「んで、これもよくわかんないんだけどさー…あの腕と同じ嫌な感じ、えくれあからもするんだよねー?」
「え…私…ですか?」
「うんー、その眼かなー?とにかくすっごい嫌な感じするんだよねー!!」
「ちょ、ちょっとメイさん!?えくれあさんに失礼だと思うんですけど……!?」

メイの突然の発言に困惑するえくれあ。フィリアも慌ててメイをたしなめるが、当のメイは気にしていない様子だ。

「とりあえずさー、あの腕嫌だから早くぶっ壊しちゃうよー!!!」
「ちょっとメイさん!!」

一目散に《ファルス・アーム》の1つに駆け出すメイと、それを追っていくフィリア。しかし、次の瞬間状況は一変した。

「うわあああああああああ!?」
「いやああああああああああ!?」

《ファルス・アーム》は突如動き出し、フィリアとメイを平手で叩き潰したのだ。

「ちょっとちょっと、あの腕ヤバいんじゃない……?」
「は、はは、何の腕だか知らねえけど、何で腕がひとりでに動くんだよ…!?」

エオリアとショウは目の前の状況を整理できずに混乱した様子を見せる。

「(私は何とかこのよく分からない力で回復できましたが……)」

えくれあは呆然とする仲間達をちらりと見回した。

「(今の『私達』にビブラスとあの訳の分からない腕を何とかするだけの余力は…どうすれば……!!)」

えくれあは必死に脳をフル回転させて次なる手を模索する。その時、新たな異変が起こった。

「あれ…何でしょう?」
「どうしたシルファナ、こんな時に…ん、あれは……!?」
「クォーツ・ドラゴン…ですって……!?」

空に一点の煌めきを発見したシルファナが声を上げる。怪訝そうにその方角を見上げたシャルラッハも声を大きくすると、アルは絶望に満ちた悲鳴のような声を上げる。そこには、空から降ってくる《クォーツ・ドラゴン》の翼が見えたのだ。

「え、えくちゃん…くぉーつどらごんって、リリーパにいるの…?」
「知りません、どうしてこんな事に……!!」

フォンの問いに取り乱して答えるえくれあ。しかし、その後不可解な出来事が起こった。なんと着地した《クォーツ・ドラゴン》の翼は消え去り、そこに2人の男女が立っていたのだ。

「ちょっとあなた達、大丈夫!?」
「いてて…油断したなー、くそー…」
「助け…?でも、今の翼…!?」
「ふー、何とか間に合いましたね、枝さん。」
「ええ、私は2人を運ぶわ。PRETZ君はそいつをお願いね。」
「了解っす、いっちょやってやりますか!!」

PRETZと呼ばれた青年は腰に付けた双機銃を取り出すと、真っ直ぐに《ファルス・アーム》に構える。《ファルス・アーム》は再び己を振り上げてPRETZを叩き潰そうとするが、PRETZは青い閃光に包まれ消え去り、《ファルス・アーム》の背後に出現した。

「見たか、リューダーソーサラーのワープ能力!!んでもって、食らえエルダーリベリオン!!」

PRETZは至近距離から《エルダーリベリオン》を繰り出し、《ファルス・アーム》の手首部分に銃弾を雨の如く浴びせ掛けた。

「ふぅ…良いタイミングで来られたみたいね。」
「え、枝さん…どうしてここに!?」
「ふふ、お久しぶりね、えくれあちゃん、エーテルちゃん。」
「わー枝さん久し振りだねーっ!!でもでもっ、さっきのクォーツ・ドラゴン、何だったのーっ!?」

エーテルは我慢がならないといった様子で枝に問いかける。

「そうねぇ…あれが彼…PRETZ君の能力なのよ。」
「PRETZ…さん…?」
「えぇ、よく分からないけど触れた相手の能力をコピーして使えるらしいのよ。」

枝が説明を済ませたその時、もう片方の《ファルス・アーム》も動き始めた。

「ちょ、こっち来るよー!?」
「落ち着いてください、後衛組は遠距離攻撃で牽制の準備を……!?」

えくれあが指示を出したその時、突然基地の外から2人のアークスらしき人物が現れた。その片方が放った大砲の一撃で、《ファルス・アーム》は動きを止めた。

「おい、見てみろれい。見た事がないエネミーだ。」
「見れば分かるわよ。あなた、どれだけ面倒事が好きなの?」
「いいじゃねえか、さっさと仕留めるぞ…ん?」

2人組の内、赤髪の大男がえくれあ達に気付いて駆け寄ってくる。その後ろを青いツインテールに鉢巻を巻いた女性が渋々付いてきた。

「君たちがこの拠点の防衛を担当していたのか。」
「はい…救援に来てくださったのですか?」
「あぁ、まあそんなところだ。俺の名はブレイズ、よろしく頼む。こっちは相方のれいだ。」
「勝手に紹介するんじゃないわよ。……れいです、よろしくお願いします。」

ブレイズとれい、2人が自己紹介を済ませるとえくれあも慌てて頭を下げた。

「申し遅れました、えくれあと申します……あっ」

えくれあの声にれいとブレイズが振り向く。先程大砲の一撃で怯んだ《ファルス・アーム》が再びえくれあ達向けて動き始めていた。

「よし、あの腕は俺達に任せてもらおう。行くぞれい。」
「…分かったわ。」

そう言うと2人は再び《ファルス・アーム》に向けて駆け出していく。

「私もそろそろPRETZ君を手伝いに行くわね。えくれあちゃん達には悪いんだけど、あのダーク・ビブラスを頼めるかしら?」
「分かりました、枝さん達もご武運を。」

そうして枝もPRETZが対峙している《ファルス・アーム》へと走っていった。

「そういえば、あのダーク・ビブラス…何で動かねえんだ?」

不意にショウが疑問を口に出す。

「そんなん決まってんじゃん!!最強であるこの私に恐れをなして…」
「いや、お姉ちゃんさっき私らと一緒に伸びてたじゃん…」

エオリアが自信げに胸を張るが、アルがすかさずに突っ込んで言葉を切った。

「とにかく、大人しくしているのなら好都合です。今のうちに叩いてしまいましょう。」
「そうだねフェデルタお兄ちゃん!!…えくれあさん、一緒に戦ってくれますか…?」

フェデルタの言葉に便乗したフィリアが、こわごわとえくれあに問いかける。

「もちろんです、よろしくお願いしますね…!!」
「わたしも…頑張らなきゃ……っ!!」
「姉さん……?」

フィリアに快諾し、再び《ブランノワール》を抜いたえくれあが後ろのエーテルを見やる。すると、エーテルからもえくれあ同様の紅いフォトンが溢れ出していた。

「もう…足手まといばっかりじゃいられないから…わたしも…わたしだって……っ!!」
「…分かりました。私とフィリアさんと姉さんで奴を叩きます。皆さんは援護を…」

えくれあが言い切るより早く、仲間達が応える。

「ほいほい!!えくちゃんも皆も頑張れ!!」
「…とりあえずその紅いのはやめてほしいんだけどなー、まぁ弟子の頼みじゃ断らないけどさー…!!」
「…了解しました、遊撃体勢に入ります。」
「しろちゃんと一緒なら、わたしも何だって頑張るよ~!」
「ふっふっふ、私のウィークバレットが火を吹くわよ!!」
「それ、銃口から火吹いたりしないわよね…ま、私もやるだけやってやるわ!」
「おう!!援護でも何でもオレに任せとけ!!」
「援護なら…僕だって!!」
「やれやれ、無茶なマスターの居るチームに入ったものだ…。」
「不安ではありますが…頑張りますね!」

仲間達の思いも乗せて、えくれあ、エーテル、フィリアが一斉に駆け出した。

「おわっ!?こいつ何で俺の場所が分かるんだよ!?」
「PRETZ君、大丈夫!?」
「枝さん!!助かりました、こいつマジで強いんですよ!!」

《ファルス・アーム》の猛攻に攻めあぐねていたPRETZの元に駆け付けた枝は、抜剣に手を掛けたまま《ファルス・アーム》を睨み付けた。

「さっきの手首への攻撃…僅かだけど嫌がるような素振りを見せていたわ。」
「っし、じゃあまた俺がワープして背後に回ります!!」

そう言うとPRETZは《ファルス・アーム》の背後にワープした。

「あなたの相手は、私よ。」

枝は消えたPRETZを探してまさぐる《ファルス・アーム》に《グレンテッセン》で斬り掛かる。

「行くぜ、チェイントリガー!!」

PRETZが手首にチェイントリガーを貼り付け、そのまま怒涛のように銃弾を浴びせていく。

「とどめだ!!!」

流れるように《インフィニティファイア零式》を叩き込むPRETZ。しかし、その一撃より僅かに早く《ファルス・アーム》の平手打ちが枝を襲った。

「きゃあっ!?」
「枝さん!!」

咄嗟に刀身で受け流そうとした枝だったが、余りのパワーに強引に叩き伏せられてしまう。

「てめぇ、やりやがったな……」

怒りに震えるPRETZの身体から、青い光が溢れ出す。

「全解放!!」

光に包まれたPRETZの身体は一瞬の内に変化していく。その姿は人間のそれではなく、数多の生物の集合体《キマイラ》の如き姿と化していた。

「邪魔だ、どけ。」

PRETZは《デッドアプローチ》で《ファルス・アーム》を突き飛ばし、倒れている枝を安全なところに避難させる。

「悪いわね、油断したわ…」
「たまにはそういうこともあります。さくっと倒してきますから、ここで休んでてください。」

そう言うとPRETZは《ファルス・アーム》に向き直った。

「もう一発だ、デッドアプローチ」

再びの《デッドアプローチ》でまたも吹き飛ぶ《ファルス・アーム》。

「今までのはさっきお前がぶん殴った女の子達の分だ。」

PRETZを叩き潰そうとする《ファルス・アーム》を、《ラプラスの悪魔》のバリア能力で何事も無かったかのように防ぎ切る。

「失せろ。」

PRETZの放った《サテライトエイム》は《ファルス・アーム》の手の平に直撃し、次の瞬間にはばらばらに吹き飛ばした。

「今のが叩き潰された枝さんの分…っぐ」

《ファルス・アーム》の粉砕とともに元の姿に戻り、そのまま地面にうずくまるPRETZ。

「PRETZ君…!!」
「…ははは、いい加減慣れたいんですけどね、すんません…」

枝から《スターアトマイザー》をもらい、PRETZは照れ笑いを浮かべながら起き上がって座り込んだ。


「む、あっちは早くも終わったようだな。」
「別にそんなの勝負したってしょうがないじゃない。」

同じ頃、ブレイズとれいの2人も《ファルス・アーム》の片割れとの戦闘を開始していた。

「…ウィークバレット」
「行くぞ、ハトウリンドウ!!」

暴れまわる《ファルス・アーム》に、れいが的確に《ウィークバレット》を命中させる。次の瞬間にはブレイズの《ハトウリンドウ》が同じポイントを正確に打ち付け、《ファルス・アーム》は激しく地面を転がっていく。

「よし、一気に行くぞ。」
「もうやってるわよ。」

ブレイズが声をかけた時には、既にれいは《サテライトカノン》の照射準備を始めていた。

「相変わらず大した奴だぜ。俺も負けていられんな。」

ブレイズは不敵に微笑むと一気に《ファルス・アーム》に詰め寄る。

「シュンカシュンラン…!!」

幾度にも渡る神速の斬撃が《ファルス・アーム》を斬り付ける。

「ふっ、後は『これ』で終いだな。」

好き放題に斬り刻んだブレイズに反撃しようとその場で暴れる《ファルス・アーム》を、嘲笑うかのように躱して離脱するブレイズ。そして次の瞬間、真上から照射された《サテライトカノン》が直撃し、《ファルス・アーム》は跡形も無く消滅した。



2体の《ファルス・アーム》が消滅する少し前、えくれあ達の接近に気付いたせいか、突如《ダーク・ビブラス》が行動を開始した。

「嘘っ!?動いちゃったよっ!?」
「えくれあさん!!」
「元々壁殴りをするつもりはありません、このまま迎撃します…!!」

意を決して《ダーク・ビブラス》にそのまま駆け寄る3人。対する《ダーク・ビブラス》は四方にエネルギー弾を放って迎撃を試みた。

「皆さん、慌てずに法撃や射撃で撃ち落としてください。」
「はーい!!せーの!!」
「いきますね……!!」
「「フォイエ!!」」

フェデルタの合図でフォンとシルファナが一斉に《フォイエ》を放った。

「シフトピリオド!!じゃ届かないから、ワンポイント!!」

エオリアも長銃を構え、《ワンポイント》を放つ。3人の攻撃は見事それぞれエネルギー弾に命中し、空中で爆破させることに成功した。

「当たって、シャープボマー!!」
「行きます、アディションバレット!!」

エーテルとフィリアは《ダーク・ビブラス》本体に向けて《シャープボマー零式》と《アディションバレット》で攻撃を仕掛ける。見事命中してガッツポーズを決める2人だったが、攻撃に怒った《ダーク・ビブラス》は激しい衝撃波を放ちえくれあ達を吹き飛ばした。

「っぐ…ディストラクトウィング!!」

えくれあは《ディストラクトウィング》で衝撃波を相殺し、致命傷を避ける。えくれあより後方に居たエーテルとフィリアも難を逃れた。

「わっ、えくれあちゃんあれ見てっ!?」
「ゴルドラーダを…産んでる……!?」

《ダーク・ビブラス》は背中から《ゴルドラーダ》を大量に産み出し、放出し始めた。

「ここに来て数の暴力とは…!!」
「えくれあさん、雑魚は私達にお任せください。」
「すずしろちゃんっ!!」

見れば、えくれあ達の左後方をすずしろとくろがね、右後方ではアルとショウが追走していた。

「行くよ~グリムバラージュ~」
「…グレンテッセン。」
「グラビティブレイク!!」
「食らえ、ディストラクトウィング!!」

えくれあ達がかわして抜き去った大量の《ゴルドラーダ》を、すずしろ達が後方で薙ぎ倒していく。数体は迎撃を掻い潜ってさらに進む個体が居たが、その先にはシャルラッハとリアンが待ち構えていた。

「やってやる…僕だってやってやるんだ…!!」
「口より手を動かせ、リアン。」
「わ、分かってるよ!!サクラエンドっ!!」

シャルラッハに唆されたリアンが《サクラエンド》で数体の《ゴルドラーダ》を屠ってみせる。それでもなおリアンに襲い掛かる《ゴルドラーダ》に、シャルラッハの《イモータルターヴ》が叩き付けられる。

「…まぁ、悪くない出来だ。」
「え、えへへ、僕でも役に立てるんだ…!!」

たちまち殲滅された《ゴルドラーダ》達を見て、えくれあ達は握った武器を改めて握り直した。

「…失敗は許されません。」
「当然っ!!」
「やってやりましょう!!」

エーテルは《リカウテリ》を引き絞って《バニッシュアロウ》、そして立て続けに《シャープボマー零式》を放つ。次の瞬間、大爆発が起こって《ダーク・ビブラス》の頭部が砕け散った。

「えくれあちゃんっ!!フィリアちゃんっ!!」

紅い眼に希望を乗せて、エーテルは叫んだ。

「……同時に行きます、準備はいいですか。」
「……はい!!」

えくれあとフィリアは同時に踏み切り、エーテルが破壊したことで現れた頭部コアの目の前まで飛び上がった。フィリアの双小剣《ノクスネシス》と紅く染まったえくれあの《ブランノワール》、2対4本の刃が交錯した。

「斬り刻め、ケストレルランページ…!!」
「行きます!!オウルケストラー!!」

無数の斬撃が《ダーク・ビブラス》を襲う。何度も、何度も、仲間達の思いを乗せて。2人の少女は振るう刃は《ダーク・ビブラス》のコアを散り散りになるまで刻み続けた。そして2人が重力に任せて着地し、武器を収めたその背後で、《ダーク・ビブラス》は断末魔を上げながら地面に崩れ落ちた。



エーテルを先頭に、仲間達がえくれあとフィリアの元へ駆け寄ってくる。枝やPRETZ、れいとブレイズまでもが2人の元へと駆け寄ってきた。

「…………ふふっ」
「…………えへへ」

2人の少女は何も言わずに握った拳をぶつけ合った。2人の晴れ晴れとした笑顔に、勝利を確信した仲間達の表情にも笑顔が浮かんだ。長い防衛任務での疲労か、或いはあまりに張り詰めた緊張がほぐれたせいか、一行は言葉も発すること無くその場にへたり込み、そんな互いの姿を見て再び笑いが起こった。「これで帰れる……」誰もがそう思ったその時だった。

「あれ、この音何かしら…?」
「音…?枝さん、何か聞こえるんですか?」
「まさか、また敵襲だったりしてな。」
「ちょっと、あんまりいい加減な事言うと……」

ブレイズの軽口をれいがたしなめようとした時、誰にでも分かる程の轟音が周囲に響き始めた。見上げると、そこには大きな影。

「おーい!お前ら聞こえるかー!?」
「おや、あの声はどこかで……?」
「あっ!わかったっ!!オプタさんだよ!!おーいっ!!」

フェデルタが首を傾げていると、エーテルが思い出したように声を上げた。

「いつまで経っても帰ってこない奴らが居るって聞いて、迎えに来てやったぜ!!」

オプタと呼ばれた操縦士からの無線音声に歓声を上げる一行。

「…すずしろさん、オプタ、という名前ですが…」
「はい、私も聞いたことがあります。」

えくれあに話を振られたすずしろが真顔で答える。すると、端末からオプタの焦燥感に満ち溢れた声が聞こえてくる。

「ん!?計器に異常!?くそっ、この駄々っ子ちゃんめ!!まずい不時着する!!そこをどいてくれ!!」

すずしろは真顔のまま続けた。

「墜落王オプタ…気前のいい操縦士だがよく機体の不具合を起こすと一部で噂されていると聞いたことがありますね。」
「わぁ、すずしろさん詳しいねー!!」
「フォンさん、感心している場合じゃありませんよ!!」
「そうだよっ!!すずしろちゃんもおすまししてないで逃げないとっ!!」

えくれあとエーテルに押し出されながら、一行は墜落してくる救助艇から間一髪で逃げ出した。後に『決死の防衛戦線』と称されアークス達の話題となるこの任務だが、彼らが無事にアークスシップに帰還できたのはそれから丸一日経った後であった事は、当人達のみぞ知る秘話であった……。

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